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初版は第二次大戦前の大ベストセラー、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』レビュー〜出版の背景、概要から感想まで〜

こんにちは、Nagoya / Nagoyaka log の楓(@kaede_twi)です。

この記事では、話題のタイトル『君たちはどう生きるか』のレビューを書いています。

初版はなんと80年前ということで、時代背景から触れていきます。

今回読んだ本
吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』岩波文庫、1982年 

出版の背景

『君たちはどう生きるか』は、
1937(昭和12)年に新潮社から出版され、
その後二度の改編を経て、
マガジンハウスから出版された新装版と漫画版だけでも、
合わせて250万部を突破(2018年4月現在)という大ベストセラーです。

そもそもは、
今から80年前にジャーナリストの吉野源三郎が、
山本有三が編纂する『日本少国民文庫』のために執筆したものでした。

当初は山本自身が執筆する予定でしたが、
重い目の病気のため、代わって書くことになったそうで、
「作品について」のなかで、吉野自身は
『私は、そのころ哲学の勉強をしていて、
文学については、学生時代から好きで親しんではいましたが、
なんといってもまったく素人でした。』
と述べています。

また、時代背景としては、
『君たちはどう生きるか』の出版された月に日中戦争の発端である盧溝橋事件が起き、
ヨーロッパではヒトラーやムッソリーニが台頭するなど第二次世界大戦が始まる前の危険な状況にあったようです。
日本では治安維持法が拡大して使用され、
言論の自由や出版の自由が制限され、
自由な執筆が困難な中で、また軍国主義が勢力を振るう中で、
少年少女たちのために『君たちはどう生きるか』は出版されました。

『君たちはどう生きるか』の概要 ・印象的なエピソード  

概要

主人公のコペル君は中学生。
まだ子どものようなところもありますが、
鋭い観察力を持ち、物事をよく考えることができ、思いやりのある少年です。

コペル君の家にはお父さんがおらず、お母さんたちと住んでいます。
そこに近くに住むお母さんの弟、
大学を出てからまだ間もない法学士の叔父さんがしばしばたずねてきます。

コペル君はこの叔父さんに、
日々の出来事の中で気がついた発見やそのときの気持ちを話し、
それに対し叔父さんは、
コペル君との対話やコペル君へ向けて書いたノートの中で、
コペル君の気づきに感心したり、補足したり、
ときには叱ったりしながら、
コペル君の気づきや、学びを発展させていきます。

そのやりとりの中で、
例えば、
自分の思想とはなんなのか、
人間の立派さとはどこにあるのか、
なぜ勉強が必要なのか、
貧困について、
生産する人と消費する人という区別など、
表面的な意味合いは感じ取れていても、
具体的に説明しづらい事柄を、
コペル君を通して分かりやすく伝えています。

印象的なエピソード/ニュートンの林檎

落ちた林檎を見て、
なぜニュートンの頭の中で万有引力の思想にまで発展したのかという、
叔父さんが小学上級ころに抱き、
そのままにしていた疑問が、
大学生になってから、
ある友だちの説明を聞いて納得できたというお話です。

言葉としては誰もが知っているニュートンの林檎のエピソードですが、
この疑問が解決したときの説明の描き方が素晴らしく、
丸山真男は「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」の中で、
『人類史上の「大発見」といわれるものにたいするこの著の叙述のもうひとつの特色は、
科学的な思考のプロセスをいわば心理的なプロセスに置きかえてゆく、

その想像力の豊かさです。』
と述べています。

また、この話の中で叔父さんが、
『あたりまえのことというのが曲者なんだよ。
わかり切ったことのように考え、

それで通っていることを、
どこまでも追っかけて考えてゆくと、
もうわかり切ったことだなんて、
言っていられないようなことにぶつかるんだね。

こいつは物理学に限ったことじゃあないけど……』
と発言しているのですが、
これが次のエピソード「人間分子の関係、網目の法則」につながっていきます。

印象的なエピソード/人間分子の関係、網目の法則

コペル君が自分で発見し、名付けた法則です。
この発見は経済学や社会学で言う「生産関係」のことなのですが、
叔父さんからニュートンの林檎のエピソードを聞いたコペル君は、
自分の身の回りのものから、
誰からも学ばずに自然とその関係性を発見します。

叔父さんはコペル君に、
すでに知られたことであることを伝えたうえで、
それを一人で考えついたことを讃え、
また、このことから勉強がなぜ必要なのかを自然と導き出します。

印象的なエピソード/人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて

コペル君が友だちとのとても大切な約束を破り、
大きな失意の中で病に伏せるというのが話のはじまりです。

コペル君はそこで、
今までに体験したことのない、
耐えがたい後悔や自分への失望を経験します。

このような体験は形を変えて誰にでも起こることであり、
その心境は実感をともなって理解でき、
読んでいるこちらにもその辛さが身にしみてくるようでした。

お話では、
このような状況からコペル君が立ち直っていく様が描かれているのですが、
このときのお母さんのお話や、
「おじさんのNote」に書かれている
  僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。
  だから誤りを犯すこともある。
  しかし__
  僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。
  だから、誤りから立ち直ることも出来るのだ。
という言葉は、
失敗したり、後悔したり、悲しんでいたり、失望している人が、
それでもそこから立ち上がろうとするときに、
大きな支えとなる言葉だと思います。

感想

ずばり、まだ読んでいない人にはぜひ読んでいただきたいです!

ベストセラーであるのも納得の素晴らしい作品で、
義務教育中に読んだ方がよいのではと思えるくらいでした。

生きていくうえで大切なことなのに、
深く考えることがないようなことを、
分かりやすく丁寧に説明していています。

例えば、
貧乏であることを、
どうして馬鹿にしたりしてはいけないのかという、
ごく当たり前に教えられ知っていることに対しても、
貧乏ってどういうことなのか、
なぜ馬鹿にしてはいけないのか、
家が豊かで働かずに学べる学生と、
家が貧しく働きながら学んでいる学生との違いは何かなど。

また、コペル君が一つの発見をするお話では、
発見することの偉大さと、
学ぶことの大切さを知ることができ、
コペル君が友だちを裏切ってしまうお話では、
後悔することが起きたときに、
人はどういう思考に陥るのか、
そこからどうやって立ち直っていくのか、
そこから何を学ぶことができるのかなど。

岩波文庫版では、
『君たちはどう生きるか』発表から約45年後、
吉野が亡くなった数ヶ月後に、
雑誌『世界』(1981年8月号、初代編集長は吉野源三郎)に掲載された、
政治思想史学者の丸山真男の「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」 が掲載されています。
これには、当時の様子や、丸山を通しての吉野源三郎という人物について描かれており、
本や著者について深く知ることができる内容で、
なかなか面白く、参考になりました。
本文だけでも十分価値のある作品ですが、
これから読む方には岩波文庫版を最後まで読むことをおすすめします!

 

*この記事は、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』(岩波文庫、1982年)を一部引用・参照しています。

 

マメナチカ
マメナチカ
宮崎駿監督の次回作の題名に使われるんだよネ!

楓
そうだね!冒険活劇ファンタジーらしいけど、どんな作品になるんだろうね♪ 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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