こんにちは、楓*です♪
この記事では、ドニー・アイカー『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』(2018、河出書房新社)について書いています。
私がこの本を手に取ったきっかけは、
偶然本屋で見かけたという夫に面白そうな本があると紹介されたからなのですが、
twitterでは著名な方々が本書についてツイートされていました。
新刊『死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』(河出書房)に解説を書いてます。
1959年、ロシアで起きた未解決事件に関する、ほぼ唯一にして決定的なルポタージュ。「ネットに出てる情報はもう読み尽くした」という人にこそ読んでもらいたいです↓https://t.co/k4TPGdpRJj pic.twitter.com/wUVKA0P362
— 佐藤健寿 (@x51) August 25, 2018
佐藤さんは写真家の方で、『奇界遺産』という写真集のほかエッセイなども出されています。
本書には関係ありませんが、奇界という言葉は佐藤さんの作った言葉で、登録商標されているんだとか。へ〜。
トルコへ行っていて留守の間に届いていた本の中に、ドニー・アイカー著『死に山 世界一無気味な遭難事故≪ディアトロフ峠事件≫の真相』(河出書房新社)を発見、旅の荷物の片付けを中断して貪るように読んでしまった。こんなにスリリングで面白いミステリ・ノンフィクションを読んだのは久しぶり。
— 高野秀行 (@daruma1021) September 3, 2018
高野さんは、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットーというノンフィクション作家の方です。
この本、非常に面白く読んだ。経験を積んだ登山パーティの異様な末路の謎は…ということに迫ってるんだけど、まさかこんなことがあるなんてという結末。/『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』ロシア史上最悪の遭難怪死事件に挑む – HONZ https://t.co/RF5IiYGAdA pic.twitter.com/SBxUe5XsMC
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) September 8, 2018
佐々木さんは様々な肩書をもつジャーナリストで評論家の方です。関係ありませんが(笑)、奥様はイラストレーターの松尾たいこさんだそうです。へ〜。
と、様々な方が反応している興味深い本です。
ノンフィクションとは思えないようなストーリー性があり、普段ノンフィクションは読まない方でもミステリーが好きな方なら引き込まれそうな感じがあります。
事件や本の概要(ネタバレなし)、私の感想(ネタバレあり)を自由に綴っていきますが、
ご紹介しているリンク先ではネタバレしている(本書で真相としている仮説に触れている)場合もあるのでご注意ください。
目次
『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』について
ディアトロフ峠事件の概要や、本書・著者についてご紹介します。
ディアトロフ峠事件について
1959(昭和34)年、冷戦下のソビエト連邦・ウラル山脈で起きた遭難怪死事件。
ウラル工科大学の学生やOBが中心のグループで、その10名のうち9名が不可解な死を遂げた。
皆テントを棄て、マイナス30度になる外へ靴も履かずに飛び出していた。
舌を無くしている者、
頭蓋骨を外傷により損傷している者、
着衣から通常より高濃度の放射線が検出される者など、
その状況は凄惨であり不明な点が多い。
目撃者がおらず、冷戦下のソ連という閉ざされた状況であることも影響し、
雪崩、
吹雪、
脱獄囚や先住民、未確認生物による襲撃、
兵器実験による爆発、
ロケットの残骸の落下、
UFO、
宇宙人、
陰謀論など様々な説が流布している。
2019年2月、ロシア検察はディアトロフ峠事件を再調査していることを明らかにした。
映画
『ディアトロフ・インシデント』2013年
レニー・ハーリン監督によるディアトロフ峠事件を題材にしたSF・スリラー。
ドキュメンタリー映画を制作するため、5人のアメリカ人学生が現地に向かい、そこで遭遇する恐怖体験を描いた作品です。
テレビ
日本では、「奇跡体験!アンビリバボー」や「ザ・プレミアム 幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー」で取り上げられています。
フジテレビ「奇跡体験!アンビリバボー」ディアトロフ峠特集始まった‼
若者が連続怪死 死の山のナゾ! 60年目の真実 ですって。
『死に山』著者のアイカーさんも出てるー!#ディアトロフ峠事件#死に山#世界一不気味な遭難事故#アンビリバボー pic.twitter.com/vlQr6vmhgm— 河出書房新社@ユヴァル・ノア・ハラリ新刊『21Lessons』発売 (@Kawade_shobo) December 6, 2018
【3日夜・再】ダークサイドミステリー「緊急報告!“死の山” #ディアトロフ峠事件 」は、3日(火)夜11時45分から再放送予定です。
ロシアの雪山。若者9人の原因不明の死亡事件。真相究明への最新展開を報告![BSプレミアム]
#栗山千明 #廣瀬陽子 #松閣オルタ #中田譲治 https://t.co/AiifsbYMvM— NHKドキュメンタリー (@nhk_docudocu) September 2, 2019
本書について
アメリカ人のドキュメンタリー映画作家であるドニー・アイカーにより手がけられた本書の原著は、2013年に出版され、日本では2018年に河出書房新社から発刊されました。
事件から50年以上経ち、今なお謎に包まれているこの事件について、
現在だからこそ到達できる不可能性の低い結論を導き出しており、
興味深い仮説が描かれています。
また、
- 著者自身のルポ
- 事件当時のグループの様子
- 事件直後の捜査の様子
と、3つの視点がそれぞれストーリー性をもって描かれており、
ミステリー小説を読んでいるような読みやすさがあります。
(ただし、交互に時系列で進められていくので最初は混乱するかもしれませんが。)
事件当時・直後の様子についてはグループが残した実際のメモや写真、捜査資料、関係者へのインタビューなどを中心とした一次資料をもとに描かれており、真実みがあります。
グループのメンバーが撮影したたくさんの写真を見ることができ、単なる謎解きを越え、彼らの人間性や当時のソ連の若者の様子が伺え興味深いものになっています。
最後にロシアから戻った著者が真相解明に挑み、
巷に流布する説をシャーロック・ホームズのように吟味し現代科学を交えてその真相に迫ります。
河出書房新社による紹介は以下のとおりです。
冷戦下ソヴィエトで起きた未解決遭難怪死事件。上着や靴を脱ぎ、3人は骨が砕け1人は舌を喪失、放射線検出。ネットで話題となった事件に米国人ジャーナリストが挑む! 『奇界遺産』の佐藤健寿氏大推薦!
世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》──
その全貌と真相を描く衝撃のノンフィクション!1959年、冷戦下のソ連・ウラル山脈で起きた遭難事故。
登山チーム九名はテントから一キロ半ほども離れた場所で、
この世のものとは思えない凄惨な死に様で発見された。氷点下の中で衣服をろくに着けておらず、全員が靴を履いていない。
三人は頭蓋骨折などの重傷、女性メンバーの一人は舌を喪失。
遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出された。最終報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみ――。
地元住民に「死に山」と名づけられ、事件から50年を経てもなお
インターネットを席巻、われわれを翻弄しつづけるこの事件に、
アメリカ人ドキュメンタリー映画作家が挑む。
彼が到達した驚くべき結末とは…!
著者・ドニー・アイカーについて
フロリダ生まれ。映画・テレビの監督・製作で知られる。新しいところでは、MTVの画期的なドキュメンタリー・シリーズ『The Buried Life』を製作。カリフォルニア州マリブ在住。
本国の出版社による予告動画で、ご本人とその制作の様子を垣間見ることができます。
英語なのですが、現場に実際に足を運んだから見せられる冒頭の映像は参考になると思います。
『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』の各サイトのレビュー
各サイトの本書についてのレビューのリンクです。
ネタバレ注意ですが熱心なレビューも多く面白いので、
読了後に覗いてみると楽しいと思います。
『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』の私の感想(ネタバレあり)
様々な観点からみて、とても興味深い本だと思いました。
実際に起こった悲劇的な出来事なので、
あくまでこの本に対してですが面白かったです!
まず第一に事件の謎自体が興味深いですよね。
ミステリー小説以上のミステリーといった感じで、尋常じゃない感じが際立っています。
次に、事件当時のグループの様子がしっかりと描かれており、
冷戦下のソ連の学生たちがどのように青春を過ごしていたのか、
その若いエネルギーをどのように発散していたのかを垣間見れて興味深いです。
本書に掲載されている写真の多くに輝くような笑顔があり、
特別な人たちが特別な出来事に巻き込まれたというわけではなく、
普通に暮らしていた若者たちの日常の延長線上に起きた出来事なのだなと感じました。
私は普段登山をするのですが、登山者として読んでも、
地図のない雪山に挑戦する若者たち、経験や知識もあり一見問題のない選択を重ねているグループに起きた事故という点で考えさせられるものがありました。
また、地理的にみても日本から隔たりがあり、
耳にしたことのあるウラル山脈がそんなにも苛烈な雪山であることに驚きました。
そしてその山に、半世紀も前に今よりも頼りない装備で入っていった登山者たち、暮らしている原住民がいることにさらに驚きました。
合間に挟まれる著者自身の旅のシーンでの、温かくぶっきらぼうで面倒見のいいロシア人たちに振り回されている感じも面白かったです。
著者の遺族やソ連・ロシアという異国に対して誠実な感じも安心して読めました。
そして真相について。
この本をなぜ手に取ったかで、この真相で納得できるかに差がでそうな気がします。
あくまで真相を知りたいという人には、
もっともらしいけれど実証実験をなされていないこの結論はものたりなく感じるかもしれません。
私個人で言うと、雪崩・強風・陰謀・UFO・襲撃など流布する説よりは確かにこれは有り得そうだと思い一定の納得感は得られました。
残念ながら私の科学的な知識が乏しいため、
本書のなかでも説明はありましたがカルマン渦と超低周波音が人体にもたらす影響を想像しきれない感じもありました。
この点は知り合いの物理学者に本書を読んでもらう予定なので、その感想を待ってもう少しどういった現象なのかを理解したいなと思っています。
ところで、本書の感想を読んでいくなかであるサイトで付け足された説が、
科学的な人体への影響が想像しきれていない私にとっては理解しやすいものでした。
それはカルマン渦による音により、
グループが雪男のような架空のものを想起し、超低周波音による集団ヒステリーを起こしたのではないかというもの。
確かに事件当日の朝、グループのおふざけの虚構新聞のなかで雪男を取り上げてるので、信じていなかったけれど、咄嗟に想起したものの正しさを判断できないくらいパニックを起こした…とか、推測の推測の推測みたいになってきてますが(笑)
まぁこれは、私の場合カルマン渦と超低周波音が安全なテントから靴も履かずに逃げ出すくらい人を発狂させるのかが理解できていないので、集団ヒステリーの方が想像しやすかったってことなのですけど。
やはりここは、実証実験が待たれるところですね!
ものすごく大変そうではありますが、
この条件下ではテントを張ってはいけないというルール作りにも繋がりますし、
ぜひロシア当局(やアイカーさん)には何とか実際に近い状況を再現をしてみてほしいものです。(2019年に再調査との報道があるので、今ごろすでに結論は出ているのかな…?)
定価2350円とわりと高価な本でしたが、
巻末の登場人物や時系列などの資料もしっかりとしていて、
写真も多く、ページの体裁にもこだわりがあり、
さらに書籍の作り自体もタイトバック・角背の豪華な作りで、
河出書房新社のこの本に対する自信を感じました!
事件の真相が知りたい人、
登山する人、
気象現象に興味がある人、
ミステリーが好きな人、
冷戦下のロシアの若者たちが気になる人、
(アメリカ西海岸出身・在住の人が冬のウラル山脈に行ったらどうなるかが気になる人も?笑)
様々な人に読んでみてほしい1冊です!
最後までお読みいただきありがとうございました!