寺地はるなさんの『水を縫う』を読みました。
2020年に出版され、第9回河合隼雄物語賞受賞作品でもあります。
実ははじめましての著者の方で、表紙の美しい水の流れのイラストに惹かれ、読んでみることにしました。
水を縫う|作品紹介
松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。
水を縫う/寺地 はるな | 集英社 ― SHUEISHA ―
寺地はるな(てらち・はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014年『ビオレタ』でポプラ社新人賞を受賞しデビュー。『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』『夜が暗いとはかぎらない』『わたしの良い子』『希望のゆくえ』など著書多数。
水を縫う/寺地 はるな | 集英社 ― SHUEISHA ―
水を縫う|感想
4人+2人の6人家族の、それぞれに焦点をあてた物語が描かれています。
主人公は「男でありながら裁縫が好き」という世間のレッテルを冷静に見つめつつ自分の好きを決して手放さない高校生の清澄。
と、ジェンダー問題からはじまり、人を無用に縛る考え方に向き合うお話がつづき、日常生活や世間に対して窮屈さを感じている人にはほっとするようなお話なのではと思いました。
男性だから。
女性だから。
母親だから。
父親だから。
そんなことをしなければよかったのに。
それを選んだせいでは。
これに似たような言葉をよく聞くけれど、どれも落ち度のない人をじんわりと責め、いずれ人を追い詰めてしまう言葉だと思います。
刷り込みによってこれらの言葉を自分自身に向けて使っている場合も多くあり、それに気付く瞬間がこの物語にはあって、ちょっと滞っていた家族のそれぞれの流れが、最後には清らかで澄んだ流れへと変わっていったように思います。
清澄がドレスに刺繍を施すシーンも美しく印象的で、他の作品も読んでみたいと思いつつ物語を読み終えました♪