こんにちは、楓*(@kaede_twi)です♪
この記事では、よしもとばななさん(現・吉本ばなな、以下吉本さんとします)の『花のベッドでひるねして』のネタバレなしのあらすじと、ネタバレありの感想を自由に綴っています。
ちょっと不思議で温かい『花のベッドでひるねして』という物語。
キラキラとした言葉やシーンがたくさん出てくるので、読んでいると何かしら癒されていくような感覚のする優しいお話でした。
一方で、人の死や闇、ちょっと不気味なものも描かれており、可愛くて不気味で、何かしら伝えたいことはあるけど、声高には言わない……まるで大人のための童話のような作品だとも思いました。
目次
『花のベッドでひるねして』ネタバレなしのあらすじ
海辺で拾われた捨て子の幹は、血の繫がらない家族に愛されて育った。祖父が残したB&Bで忙しく働きながら幸せに過ごしていたが、廃墟のビルに明かりが点いてから不穏な出来事が起こり始める。両親の交通事故、夢に出る気味の悪いうさぎ、玄関前に置かれる小石……。歪んだ世界を、小さな村の平凡な営みが正してゆく。希望が芽吹く傑作長編。
花のベッドでひるねして|幻冬舎
海辺で拾われた主人公の幹
赤ちゃんの頃、海辺で捨てられていたところを母に拾われた幹。
病のため子宮をとり子どもに恵まれなかった母が、ある日突然“海で赤ちゃんが私を待ってる気がする”と、ひとり飛び出し幹を拾ってきたのだという。
家族はその出会いを運命だと喜びすんなりと受け入れた。
以来幹は大平家の子どもとして育ち、高校卒業後は実家が営むB&Bを手伝っていた。
幹は住んでいる村から出たい、家族と離れたいと思うようなことはなく、村での自分の暮らしを“すばらしい夢のようだ”と感じてさえいた。
大平家の不思議な祖父
大平家の亡くなった祖父は、とても不思議な人でほしいものがいつのまにか手元にやってくる特技を持っていた。
祖父がなにかを引き寄せるとき、奇跡みたいなもののきらめきがあたりをまとっていたと幹は感じていた。
そんな不思議さに惹かれ、悩みを相談したり考え方を習う人がやってきていて、祖父と過ごすためだけに遠くからやってくる人も多かった。
そんな祖父に幹がかつて言われた言葉がある。
大事なのは違うことをしないことだ。
それぞれに誘われやすい『違うこと』は違う。誘われやすさはその人の長所のすぐとなりにあるから、だれもが毎日十円、百円と借金をするように『違うこと』をしている。
それから
花のベッドに寝ころんでいるような生き方をするんだよ。幹のいちばんいいところは、心からの幸せの価値を知っていることだ。今のままでいい。うっとりと花のベッドに寝ころんでいるような生き方をするんだ。
とも。
奇妙でどこか気がかりな出来事
幹の家の裏手には廃墟となったビルがあった。
そこはかつて暗く偏屈なおばあさんが住んでいたが亡くなり、取り壊されるかと思いきやそのまま放っておかれていた。
見るたびにげんなりするようなところがあって、幹はあまり見ないようにしていたのだが、ある日そこに小さな明かりがついていることに気づく。
その頃から、家に小さな石が置かれるようになり、危ないというほどではないがつまずくようになる。
さらに母が交通事故で入院することになり……。
何かネガティブなものを感じさせる出来事が続きはじめるが、そこにある人物が登場することで、事態が大きく動き出す。
『花のベッドでひるねして』の情報
『花のベッドでひるねして』ネタバレありの感想
幹の在り方
過去にあった重く、暗い出来事に囚われそうになっては、目の前の現実、目の前の家族に救われてきた幹。
赤ちゃんの頃に捨てられ、いちど亡くなったも同然の幹にとって、この世界に生き延びたこと事態が奇跡であり、大平家のような温かく不思議な人たちと家族になれたことも奇跡です。
自分の根本的な部分が奇跡でできているともいえる幹にとって、毎日を生きることが夢のようであり、昨日を振り返るとうっとりするというのもなんだか納得してしまいます。
ただ単に幸せな人なのではなく、かつて赤ちゃんの頃に触れてしまった闇、死と隣合わせになったことで生や明るいものの素晴らしさに敏感なのかな……と感じました。
野村くんの存在
突然登場した野村くんのおかげで、だんだんと不穏になっていく物語が、ちょっとおもしろそうな不穏さに変わったように思いました(笑)
彼自身も妻を亡くし弱ってはいたのですが、少し「違うこと」になっていた自分を修正しに来たのかなという感じでしたね。
基本的にマイペースでエネルギーを感じさせましたが、妻の死と向き合っているところなのでしょう。
まだ幹と祖父のようにはなっていない、自分のうちに亡くなった人の存在を感じるようにはなっていないのだなと。
そんな野村くんが大平家に与えた影響は絶大で、あのまま進んでいたら、大平家はだんだんと「違うこと」になっていたかもしれないと思うと、これは祖父からのプレゼントなのではと思ってしまいました。
「違うこと」ってなんだろうか
たびたび出てきた「違うこと」ってなんでしょうか?
野村くんがした「違うこと」は、結婚してほしいというパートナーの心からの願いを、自分にとってはそれが「違うこと」とわかっていながら聞いてあげたこと。
みんなが言う「まだ若すぎる」がどんどん積もって、「違うこと」をしてしまった幹の本当の母。
どれだけの「違うこと」をしないできたかと、感じさせた幹の両親の会話。
なかなか「違うこと」とはこれです!と言葉にするのは難しいのですが、なんとなく感じ取れるものはありますね。
暗いものに囚われず、周りの見方に振り回されず、自分の内にある光を見つめ、自分の周りにある自然からの眼差しを感じて生きていこうと伝えているのかなと私は思いました。
自然からの眼差しというのが人によっては神さまという存在であり、自然からの眼差しはなぜか自分の内にあるとも言えると。
最後、世界と自分が循環しているようだと感じている幹の描写で物語が終わりました。
ファンタジー、スピリチュアルな要素
吉本さんの作品はけっこう読んだことがあるかなと思うのですが、そのなかでも不思議な部類のお話だったように思います。
ファンタジーとスピリチュアルが混じり、さらに登場人物それぞれの姿をストーリーのなかで描いているというよりは、その人となりを登場人物たちの回想のなかで描いていることが多く、ある人の心の中に流れる断片的な物語を読んでいるような気分でした。
そもそもキーパーソンである祖父と桃子さんは亡くなっているので、現実のストーリーには関われないですし。
回想であったり、夢のなかであったり、現実と少し切り離されているシーンが多く、さらに大丘村そのものがファンタジーの舞台のような村でしたね。
『花のベッドでひるねして』まとめ
2013年に出版された本作は、吉本さんの父である吉本隆明さんが亡くなった悲しみのなか、書くことで悲しさを忘れようとひたすら書き続けた物語なのだそうです。
そのせいか、悲しみになかにある人に寄り添ってくれるような作品だと思いました。
少し元気がないとき、悲しみを感じるときにヒーリングの時間を持つような気分で読むのもいいかもしれません♪
最後までお読みいただきありがとうございました!