小野不由美、十二国記シリーズ『風の海 迷宮の岸』の感想&レビューを自由に綴りました。
「十二国記」シリーズの戴国にまつわるエピソードの始まりともいえる物語で、
2019年に発売された描き下ろし長編のストーリーの源流にあたります。
「十二国記」って何?どんな感じのお話?
気になる方は公式サイトへ♪
「十二国記」新潮社公式サイト
『風の海 迷宮の岸』あらすじ
まずは公式サイトのあらすじから確認を。
王を選ぶ役割を果たせぬ少年の葛藤と成長の物語。
10年の時を経て、故国へ戻された幼い麒麟は正しい「決断」を下せるのだろうか――。自身の役目と存在に悩む少年の成長を描く。Episode0『魔性の子』の謎に迫る衝撃作!
幼(いとけな)き麒麟に迫り来る決断の時──神獣である麒麟が王を選び玉座に据える十二国。その一つ戴国(たいこく)麒麟の泰麒(たいき)は、天地を揺るがす〈蝕(しょく)〉で蓬莱(ほうらい)に流され、人の子として育った。十年の時を経て故国(くに)へと戻されるも、役割を理解できぬ麒麟の葛藤が始まる。我こそはと名乗りを挙げる者たちを前に、この国の命運を担うべき「王」を選ぶことはできるのだろうか。
この『風の海 迷宮の岸』は、
戴国の麒麟である泰麒が十二国の世界に戻ってくるところから物語が動き出します。
彼はこの世に生を受けてすぐに十二国の世界から離れてしまい、
戻ってきた頃には麒麟らしい本能をほとんど見てとれないほどの状態でした。
そんな麒麟らしさが失われてしまった彼にも、
麒麟としての大きな役割が求められます。
それは戴国の麒麟として戴王を選ぶこと。
この重すぎるつとめをこの小さな麒麟は成し遂げることができるのか。
『風の海 迷宮の岸』感想&レビュー
ここからネタバレを気にせず綴っているのでご注意ください!
十二国記のなかでもわりと穏やかな部類に入る物語ですが、
泰麒がいじらしすぎて私の涙腺をかなり刺激し、
その可愛らしさに大いに癒やされる物語でした。
泰麒が麒麟としての自覚をなくして帰ってきたことで、
麒麟がどういう生き物なのかよく描かれていて面白かったです。
そもそも泰麒は自分が麒麟だと言われて、
景麒に見せてもらうまでジラフのほうのキリンだと思っていたのですよね(笑)
また、この頃の景麒の様子も面白かったですね。
最初のやりとりのつれないこと!
泰麒が泣くのももっともだ!という気持ちになりましたね(笑)
泰麒はすっかり困ってしまった。額に薄く汗が浮いている。
あんなにキリンに会ってみたいと思ったのに、そのキリンが目の前にいて、少しも前に進んだ気がしないのは、どうしてだろう。小野不由美『風の海 迷宮の岸』新潮社、2012、p.137
幼気な子どもをこんなに困惑させる景麒、さすがです!(笑)
そんな景麒が、
だんだんと泰麒とのやりとりから態度が柔らかくなっていくさまは微笑ましかったですね(しかしこれが別のストーリーへとつながっていくのが切なくも面白いところ)。
それからやがて夏至が訪れ、
昇山者としての李斎や驍宗と出会うことになるのですけど、
王気がわからず、
悩みに悩んだ泰麒でしたが、
実はかなり早い段階から驍宗のいる方角を怖がっていたのですよね。
それは予感に似ている。
遊んでいるとき、女仙に簡単な易を習っているとき、ふと視線を上げて南西の方角を見ると、とたんに胸苦しくなることがある。その方向に令坤門があることを思い出し、何やらヒヤリとするような、そんな気分がして鼓動が速まる。小野不由美『風の海 迷宮の岸』新潮社、2012、p.189
これがすでに泰麒の驍宗に対する王気の感じ方だったのですね〜!
麒麟同士が感じる麒麟の気配の形とは違ったのですね。
また、泰麒の黒麒としての底知れない力を見せつけた場面も衝撃的でした。
饕餮と対峙
↓
なんと折伏!
↓
傲濫かわいい柴犬へ
小さな妖魔ですら折伏できなかったのに、
何がどうなって伝説の妖魔を折伏。
このあたりから感じる泰麒の能力の高さの秘密が、
謎に包まれたままに感じるのですが
黒麒とはそういうものなのでしょうかね!?
また、なかなか転変もできませんでしたが、
驍宗の下山で火がついた感じで能力開花。
このあたりで皆がお祝いムードになるなか、
泰麒はどんどん追い詰められていくという…。
いつバレるのか、いつ償うことができるのか、
ずっと待っているのにまったくバレない。
最終的には景麒に告白しましたが、
「私は何も申し上げますまい。……今日のところは、お暇申し上げます」
小野不由美『風の海 迷宮の岸』新潮社、2012、p.354
もう少し何か言ってさしあげろ〜!!
と思ったのは私だけじゃないはず(笑)
しかし最終的には延王や延麒も登場し、楽しいハッピーエンドへ。
このあと続いていくストーリーはさておき、
波乱万丈、紆余曲折な「十二国記」のなかでも癒やされる物語でした♪
最後までお読みいただきありがとうございました。