近藤史恵さんの『みかんとひよどり』を読みました。
帯にあった「ジビエミステリ」という言葉がちょっと面白く感じました。
猟師とシェフの成長の物語……いったいどんなお話なのだろうと思い、山好きでもある私は猟師という設定にも惹かれ読んでみることにしました。
みかんとひよどり|作品情報
2019年にKADOKAWAから出版され、2021年に文庫化かれています。
著者は近藤史恵さん。2021年に西島秀俊さん主演で放送された「シェフは名探偵」の原作、『タルト・タタンの夢』などの著者でもあります。
美味しい料理×友情――ジビエを通してつながる、ふたりの成長物語
「みかんとひよどり」 近藤 史恵[角川文庫] – KADOKAWA
シェフの亮は鬱屈としていた。創作ジビエ料理を考案するも、店に客が来ないのだ。そんなある日、山で遭難しかけたところを、無愛想な猟師・大高に救われる。彼の腕を見込んだ亮は、あることを思いつく……。
1969(昭和44)年大阪府生れ。1993(平成5)年『凍える島』で鮎川哲也賞を受賞し、作家デビュー。2008年『サクリファイス』で大藪春彦賞を受賞。ほかに『ときどき旅に出るカフェ』『インフルエンス』『震える教室』『わたしの本の空白は』、「ビストロ・パ・マル」シリーズ、「清掃人探偵・キリコ」シリーズ、「猿若町捕物帳」シリーズなど、著書多数。
近藤史恵 | 著者プロフィール | 新潮社
みかんとひよどり|感想
食と命という重いテーマを扱った物語でしたが、美味しい料理や、緩やかに変化していく主人公と正直な周りの登場人物たち、いきいきとした犬たちのおかげで軽やかに物語が進んでいきました。
真面目で腕はいいけど、迷いと自信のなさを感じさせるシェフの潮田と、まだ若いのに人との関わりを拒絶するようなそぶりを見せる猟師の大高。
正反対の二人が、ジビエと犬を通してつながってゆき、両者はだんだんとお互いに影響を与えていく。
自信がなかった潮田は大高から強さを、頑なだった大高は潮田から柔らかさを。
介在する犬たちの存在も大きく、二人はそれぞれに人以外の生き物を大切に思っている点でも共通点がある。
また、犬たちについてもそれぞれの個性がしっかりと描写されていて楽しかった。
食事をするときに、何をどのように食べるかについては考えるけど、その材料の背景にあるものまで考えることはほとんどない。
動物性たんぱく質はもちろん、植物性の食べ物でも、それらを生産するために様々な生き物の命を頂いているということは、すぐに忘れてしまうし、向き合うのはとても重いことだけど、忘れてはいけないことだと思いました。
そして、「いただきます」という言葉がどんなに大切なものなのかを改めて実感しました。