道尾秀介さんの『雷神』(2021)を読みました。
「ミステリの神業を見よ。」とは帯に書かれていたキャッチコピーですが、その言葉に嘘はなく、悲劇としてもミステリとしても素晴らしい作品でした。
作品の情報と感想を書いておこうと思います。
雷神|作品情報
2021年に新潮社から出版されました。
著者は2011年の『月と蟹』での直木賞をはじめ、数々の賞を受賞している道尾秀介さんです。
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために……。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇――。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。
道尾秀介『雷神』|新潮社
1975年、東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を受賞。2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞を受賞する。2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫版)はミリオンセラーに。独特の世界観で小説表現の可能性を追求し、ジャンルを超越した作品を次々に発表している。近著に『貘の檻』『満月の泥枕』『風神の手』『スケルトン・キー』『いけない』『カエルの小指』などの作品がある
道尾秀介|著者プロフィール|新潮社
雷神|感想
この本の帯にある「ミステリの神業を見よ。キャリアハイ、著者会心の一撃。」って謳い文句、すごくないですか(笑)?
期待しつつも、ちょっと帯は煽りすぎじゃないの?なんて思っていたらそんなことはありませんでした。
これがキャリアハイとなるかは別にして、神業だし会心の一撃と思える瞬間が度々訪れました。
ミステリと悲劇。
どちらか一方の物語がすごくうまくまとまっていて、エンタメとして面白かったな〜という物語はよくあると思うのですが、この作品はどちらも面白いうえで、ミステリのなかの悲劇、悲劇のなかのミステリの要素がお互いに浮いていない。
自然の流れのなかにミステリのポイントとなるアイテムと仕掛けが出てくる。
そこだけが、やけにミステリっぽいなんてことはなく、むしろ切ない決断の瞬間が思い浮かぶような悲しい仕掛けがあって、こんなにトリックにわざとらしさが感じられないなんてすごいなと。
善良な人たちがどうしてこなってしまうのか。
最後の最後まで救いのない物語だけれど、優しさと思いやりのある娘の存在でどこか光が感じられる。
ただし、そこには本人も知らない過去の出来事がまとわりつき、エンディングとしては面白いながらも重たい気持ちで終わる。
重たいながらも……すごく面白かったです。
これがキャリアハイだとは思いたくないですね。
今後もまた素晴らしい作品が生み出されますよう、キャリアハイの更新をお祈りいたします!