平野啓一郎さんの『決壊』(上・下)を読みました。
決壊|作品紹介
『決壊』は平野さんのデビュー10年目、2008年に新潮社から出版されました。
第59回 芸術選奨文部科学大臣新人賞 文学を受賞した作品でもあります。
地方都市で妻子と平凡な暮らしを送るサラリーマン沢野良介は、東京に住むエリート公務員の兄・崇と、自分の人生への違和感をネットの匿名日記に残していた。一方、いじめに苦しむ中学生・北崎友哉は、殺人の夢想を孤独に膨らませていた。ある日、良介は忽然と姿を消した。無関係だった二つの人生に、何かが起こっている。許されぬ罪を巡り息づまる物語が幕を開く。衝撃の長編小説。
平野啓一郎 『決壊〔上〕』 | 新潮社
戦慄のバラバラ殺人──汚れた言葉とともに全国で発見される沢野良介の四肢に、生きる者たちはあらゆる感情を奪われ立ちすくむ。悲劇はネットとマスコミ経由で人々に拡散し、一転兄の崇を被疑者にする。追い詰められる崇。そして、同時多発テロの爆音が東京を覆うなか、「悪魔」がその姿を現した! 2000年代日本の罪と赦しを問う、平野文学の集大成。芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
平野啓一郎 『決壊〔下〕』 | 新潮社
決壊|感想
上下巻にわたる長編で、どっぷりとその世界に浸って衝撃的な物語を一気読みしてしまいました。
2008年に出版された作品ですが、ここ最近のまるで個人が起こすテロのような事件の延長線上にあるような作品で、見通せる人には最近のこの事態はわかっていたのかもしれない、なんて思ってしまいました。
犯人とその家族、被害者とその家族。
容疑者と真犯人。
それぞれの立場で語られる言葉によって、ひとつの事件が起こす波紋が想像以上に爆発的に、継続的に影響をもたらすことに気付かされ恐ろしくなりました。
特にこの作品では、被害者家族の壊れてくさまがまさに決壊していく感じで、やるせない気持ちになりました。
遺族が壊れていくさまが描かれるのは犯人の家族が壊れていく以上に読んでいて精神的なショックがありますね。
被害者は反省のしようがないんですよね。
だからといって犯人を責めても、もとには戻らない。
苦しいから赦そうとしたところで、相手の未来がよくなるだけ。
だから何?っていう感じなんですよね。
遺族にとって犯人や犯人の家族の明るい未来なんて本当は何も関係ない。
と、このような感想だとひたすら悲しくつらい物語のようで、確かにそうなのですが、そこはミステリのおもしろさが勝って読み進めてしまいました。
そもそも上巻ではなかなかはじまらず、様々な伏線がどんどん展開されていくようなところから一気にくるんですよ。
そのいたるところにばら撒かれる感じもおもしろく、その後の回収も恐ろしいのに読むのをやめられない感じ。
それと、主人公の謎めいた感じとだんだんとわかってくるその人柄も興味をかきたてるものがありました。
これまでもいくつか平野さんの作品を読んできましたが、やっぱり平野さんの作品は素晴らしいですね!