この記事では、
宮本輝さんの『錦繍』の
あらすじや感想について書いています。
宮本輝さんは、
1947年生まれ、神戸出身の作家です。
1977年に『泥の河』で太宰治賞を、
翌年には『蛍川』で芥川賞を受賞しました。
その後、結核のため療養に入りますが2年で復帰。
回復後は精力的に執筆活動に励まれ、
2010年には紫綬褒章を受章されました。
そんな宮本輝さんの作品を、
私はこれまで読んだことがありませんでしたが、
女優の石田ゆり子さんが、演じたかった役として『錦繍』の主人公を挙げていたことと、
義母が好きだと言っていたことから、
初めて宮本輝さんの作品を読んでみることにしました。
[toc heading_levels=”2,3″]
『錦繍』のあらすじ
ある男女が蔵王にあるゴンドラ・リフトに乗り合わせる。
それは運命ともいえる、偶然の再会だった。
過去に大きなわだかまりを残した女と、
過去の出来事にとらわれている男。
時を経てもなお、
おしとどめておくことのできない感情と向き合うために、
二人は往復書簡でのやりとりを始める。
今では珍しくも思える、
静かな手紙でのやりとりが
美しい風景描写と繊細な心理描写とともに綴られてゆく。
『錦繍』感想
ここからは感想を書いています。
ネタバレなしバージョンと、ネタバレありバーションがあるので、
まだ読んでいない方はご注意ください!
また、私が感じたことを素直にそのまま書いているので、
その点も併せてご注意ください。
『錦繍』感想(ネタバレなし)
きん-しゅう【錦繍】
錦と刺繍を施した織物。
美しい衣服や織物。
美しい詩文の字句のたとえ。
美しい紅葉や花のたとえ。
タイトルの『錦繍』という言葉がぴったりの美しい物語でした。
それは、綴られる文章であったり、
描写される風景であったり、
繊細な心の動きであったり。
読んでいる間の感覚として、
哀しい物語なのに、
美しさによって癒されていくような気持ちに。
また、人の心の奥深くを、ときに感情的に、ときに哲学的に
手紙という形で本人に語らせるという面白さもあります。
哀しい過去と現在ととらえることもできるかもしれませんが、
私は、ある男女の再起と再生の始まり、未来ある物語だと受け取りました。
宮本輝さんのその他の作品を紹介
太宰治賞受賞作(泥の河)
芥川賞受賞作(蛍川)
吉川英治文学賞受賞作
⇩この下の感想、ネタバレありなので注意してください⇩
『錦繍』感想(ネタバレあり)
『錦繍』がこんなに素晴らしい作品だとは…。
良さそうだとは思っていたのですが、
想像以上の素晴らしさで、本当に出会えてよかったです。
往復書簡という、
今の時代ではほとんど失われてしまったようなやりとり。
その中で、
手紙を書いているそれぞれが、
自分の心を見つめ、暴き、綴る。
謎のままにしてしまい、空白となった過去。
過去の体験により引き摺られてしまう感情。
このやりとりがなければ、
誰に伝えることもなく、
行き場を失ったままの感情が、
やりとりを重ねるごとに昇華されていくような感じがしました。
亜紀には清高という存在がいるため
初めから生命力を感じましたが、
有馬の危うさは不穏でしたね。
それでも最後、
人生を歩んでいこうという意思が感じられました。
令子が亜紀の手紙を読んだことで、
つかみきれなかった有馬を、令子がやっと理解できたように思います。
また、亜紀は、<モーツァルト>のご主人が亜紀が言ったのだと錯覚していた言葉、
「宇宙の不思議なからくり、生命の不思議なからくり」を感じたことで、
勝沼に対しても愛情に似たものを感じられるようになり、
決別できるようになったのかなと思いました。
過去と現在にとらわれていた二人の、
再生と再起の準備が整ったところで物語が終わりました。
未来を感じさせる温かい終わり方だと思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました。